アトピー性皮膚炎における皮膚のバリア機能の重要性

皮膚のバリア機能は、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーとの関連で人で注目されています。そして犬においても同様に、皮膚のバリア機能は注目されています。

本稿では人の皮膚バリア機能の考え方と、犬の皮膚バリア機能についての考え方について述べたいと思います。

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人の皮膚バリア機能

人ではフィラグリン遺伝子の変異があると、アトピー性皮膚炎の発症要因となることが知られています。フィラグリンとは、角層の水分保持やバリア機能に重要な蛋白です。

つまりフィラグリン遺伝子に変異があり、皮膚のバリア機能が不十分だと、アレルゲンに対する感作が成立し易くなりアトピー性皮膚炎を発症し易くなると考えられています。

また、皮膚バリア機能の低下は、アトピー性皮膚炎を発症そして悪化させるのみならず、食物アレルギーに関与することも考えられています。

皮膚のバリアは、表皮の角層が90%を担っている言われ、内側からの水分の蒸散を防ぎ、外側から花粉やダニの侵入を防ぐといった働きを担っています。

そしてフィラグリン遺伝子(FLG)の変異は、「尋常性魚鱗癬(Ichthyosis vulgaris)」という病気の原因となっていることが明らかになりました。

尋常性魚鱗癬とは

魚鱗癬は、魚の鱗のように皮膚の表面が硬くなり剥がれ落ちる、角化症という病気を引き起こします。様々なタイプの魚鱗癬がありますが、尋常性魚鱗癬は比較的軽症に分類される魚鱗癬です。

「尋常性魚鱗癬」は、前述の通り遺伝病であり、常染色体優性遺伝という遺伝形式をとります。そして、ホモ型といわれるフィラグリンが完全に失われるケースは重症となり、フィラグリンの減少が半量ほどのヘテロ型は、軽度な症状となる傾向にがあります。

尋常性魚鱗癬とアトピー性皮膚炎の併発が多いことは知られおり、フィラグリン遺伝子の変異は尋常性魚鱗戦の原因であり、そしてアトピー性皮膚炎の重要な発症因子であるとされています。

また日本人のアトピー性皮膚炎の患者さんを調べた結果、27%にフィラグリン遺伝子の変異が認められたとする報告があります。

二重抗原暴露仮説

従来食物アレルギーの感作は、口から物を食べることで起こると考えられていました。しかし、2008年にイギリスの小児科医が、二重抗原暴露仮説(Dual allergen exposure hypothesis)を提唱しました。

それは食物の暴露経路は2つ存在し、経口暴露は本来あるべき免疫寛容を誘導し、アレルギー暴露は経皮暴露によるという説です。暴露とは、化学物質などに「さらされる」ことを意味し、免疫寛容とは、特定の抗原に対する特異的免疫反応の欠如あるいは抑制状態のことを意味します。

免疫系細胞であるT細胞は、あらゆる病原体に対応できるよう、抗原に結合する部位(T細胞受容体;TCR)に無数のバリエーションを持った物がランダムに作り出されます。その中には、自分自身の細胞を異物と見なして攻撃してしまう物も作られるので、胸腺という場所でT細胞が成熟する過程で、自己の細胞に強く反応するT細胞は死滅させられる仕組みがあります。

そして、通常は食物を異物とみなさないのも免疫寛容の働きによるものとされ、この働きが機能せずに異物として攻撃してしまうのが、食物アレルギーであると理解されています。

この仮説は、ピーナッツアレルギーで研究されています。

乳幼児からピーナッツを食べた場合と遅くから食べさせた場合を比較すると、乳幼児からピーナッツを食べた方が、ピーナッツアレルギーの発症率が低かったとされ、ピーナッツオイルはピーナッツアレルギーの発症リスクになること、初めてピーナッツを食べてもピーナッツアレルギーを発症すること、患者自身がピーナッツを食べたかよりも周囲の家族がピーナッツを食べていたことが発症リスクになるなどしたことから、食物の環境アレルゲンとしての働きを示すことが示唆されました。

アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの併発が多いことが知られていましたが、皮膚バリア機能の低下が両者を繋ぐものであると考えられるようになりました。

この仮説に基づき、生後早期からのスキンケアを実施したところ、アトピー性皮膚炎の発症が30%減少したものの、食物抗原の感作については有意な差は無かったとされています。

さらに、ピーナッツアレルギーに関しては、ピーナッツを食べる時期を遅らせるよりも早期に食べさせた方が、有益だと報告されました。

小麦の経皮感染事例

前述の通り、今までは食物アレルギーの感作は食べ物を口から摂取することで感作が起きると考えられていましたが、特に皮膚バリア機能の低下している場合には、皮膚も食物アレルギーの感作に関与することが注目され始めました。

そんな中で起きたのが、「茶のしずく石鹸」の問題です。

この石鹸の中に含まれる、小麦成分のグルパール19Sが原因となり経皮感作を起こして、従来小麦アレルギーが無かった人も小麦アレルギーを発症したという事例です。症状としては、小麦摂取により蕁麻疹が発生したり、食物依存性運動誘発アナフィラキシーなどが起こったとされています。

経皮感作による食物アレルギーの重要性を認識させられる事件でした。

犬の皮膚バリア機能

犬においても皮膚バリア機能の低下が、アトピー性皮膚炎と関連していると考えられています。

海外の論文(International Task Force of Canine AD)では、犬のアトピー性皮膚炎の治療の内、慢性期の治療としてグルココルチコイド(いわゆるステロイド)、シクロスポリン(商品名:アトピカなど)、オクラシチニブ(商品名:アポキル)などを併用しながら、保湿シャンプーでの洗浄や必須脂肪酸のサプリメントの摂取を推奨しています。

人のアトピー性皮膚炎と犬のアトピー性皮膚炎は、本質的に類似した疾患と考えられていますので、人と同様に皮膚バリア機能の低下を改善することは重要な意義があると考えられています。また、人と同様に経皮感作による食物アレルギーの可能性についても、考えなければならないのかもしれません。

今後、さらなる研究が進み、犬のアトピー性皮膚炎の病態の解明、そして皮膚バリアを回復する方法、さらには食物アレルギーの経皮感作の有無などが解明されることにより、皮膚病に苦しむ犬達を少しでも救えるのではないかと考えます。

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