次世代の医薬品「核酸医薬」

今年の7月に脊髄性筋萎縮症という病気の治療薬として「スピンラザ」という薬が発売されました。この病気の最も重症なタイプである「乳児型」では、2歳までの間にほとんど死亡すると言われています。そして、病気の原因は遺伝子の異常(スプライシング異常)で、このスプライシング異常を抑制するのが、この治療薬の働きです[1]。

なお、厚生労働省が異例のスピードで、この新薬を承認したことも話題になりました。

次世代の医薬品といわれる、核酸医薬について考えてみたいと思います。

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病気と遺伝子

ほとんどの病気は、遺伝子との関連があります。そして、それらの病気を「遺伝子疾患」と呼びます。

遺伝子疾患は、遺伝子の異常が原因になって起きる疾患の総称であり、遺伝性疾患や遺伝疾患そして遺伝病とも呼ばれます。遺伝という言葉から、親から子に遺伝する病気というイメージを持つかもしれませんが、現在では遺伝しない場合でも遺伝子疾患という言葉を使います。

そして遺伝子疾患は一般的に「染色体異常症」と「単一遺伝子疾患」そして「多因子遺伝」の3種類に分類されます。

ほとんどの病気は「多因子遺伝」に分類されます。多因子遺伝は単一遺伝子疾患で認められる特徴的な遺伝形式を示さなくとも、罹患者の血縁者における再発率が高いことや一卵性双胎において同じ疾患に罹患する頻度や高いことにより示されています。人の多因子遺伝疾患には、アルツハイマー型認知症や糖尿病そして高血圧などが知られています。

これらは環境因子と遺伝因子の両方から影響を受けて発症すると言われており、「遺伝子が中に弾を込め、環境は引き金を引く」という言葉で例えられています。

動物の場合には、犬の高血圧や糖尿病そしてアトピー性皮膚炎などが挙げられます。

前述の脊髄性筋萎縮症という病気は、常染色体劣性遺伝の形式をとるとされています[2]。

メンデルの法則は理科の時間に習ったと思いますが、エンドウの種子には「しわ」のあるものとないものがあります。「しわ」のないものとあるものを交配すると、翌年はしわのないもののみが収穫され、この種子をさらに翌年育てると「しわ」のないもとのあるものが3:1の割合になったというやつです。

脊髄性筋萎縮症は、父親由来のSMN遺伝子と母親由来のSMN遺伝子が共に変異を示している場合に、その子は脊髄性筋萎縮症になります。父親由来または母親由来の遺伝子がどちらか1つだけ変異している場合は全く無症状であり、この場合を保因者と呼びます。そして保因者は生涯、症状がありません。保因者同士の結婚の場合、お子さんがSMAになる可能性は1/4 (25%)です[2]。

スプライシングとは

遺伝子には、スプライシング(splicing)と呼ばれる機構があります。

スプライシングとは、細長い物をつなぐ様子を表す言葉で、映像の分野ではフィルムを切ってつなぐ事を意味します。

スプライシンング機構とは、DNAの遺伝情報がmRNAに転写される際に、余分なものを切り離して再度つなぎ合わされることです。

真核生物のDNA上の遺伝情報は、アミノ酸配列を指定する暗号部分(exon:エキソン)の間に何カ所か意味のない配列(intron:イントロン)が介在していることが多いで、DNAの情報はまず、イントロンを含んだままmRNA前駆体に転写された後、イントロンを酵素的に切り離してエキソンのみをつなぎ合わせたmRNAができます。

このスプライシングに異常が生じた場合、機能を欠いたタンパク質あるいは細胞障害性の異常タンパク質が産生され、時として病気の発症に結びつくことがあります。

神経疾患にはスプライシング異常により発症するものが多く、前述の脊髄性筋萎縮症も、異常スプライシングにより発症するとされています[1]。

核酸医薬

核酸医薬品は、次世代の創薬技術とされており、従来の医薬品と全く異なる作用機序を有しています。そのため、遺伝性疾患、がん、その他インフルエンザやウイルス感染症などへの適用が期待されています。

しかし、核酸医薬品の開発においては、「①核酸分子の生体内での不安定性」「②副作用の懸念」「③薬物送達技術(DDS)の困難性」等の克服すべき課題があることが指摘されています[3]。また、基本特許を欧米企業が独占していることから、日本企業の開発は遅れを取っているのが現状のようです[3]。

核酸医薬の作用は、大きく細胞内か細胞外どちらで作用するかにより大きく2つに分類されます。

細胞内で作用するものとして、RNAを標的とする「アンチセンス」や「siRNA」と、タンパク質(転写因子等)と結合して転写段階を抑制 する「デコイ(囮りの意味)」が挙げられます。

細胞外で作用するものとして、抗体医薬品と同様に細胞外 タンパク質と結合して機能を阻害する「アプタマー」があります。

当初は、核酸医薬の生体内における易分解性等の問題が指摘されていましたが、修飾核酸技術や薬物伝達システム(DDS)技術が著しく進展したことから、安定で有効性の高い候補品が次々と開発されているそうです[4]。

核酸医薬は抗体医薬品と同様に、高い特異性と有効性 が期待される一方で、従来の医薬品(低分子医薬品)と同じく化学合成により製造することができるメリットがあります。また、薬効本体がオリゴ核酸で構成されるという共通の特徴を有し、有効性の高いオリゴ核酸(配列)のスクリーニングが従来の医薬品(低分子医薬品)と比較して容易であることなどから、1つのプラットフォーム(基礎部分)が完成すれば、短期間のうちに新薬が誕生すると考えられています[4]。

人医領域で開発が進む核酸医薬も、獣医療に応用される日も近いと思われます。それにより、今まで難治性と考えられていた病気が、治療できる日がくるかもしれません。

今後の開発が、望まれます。

参考文献

[1]画期的な核酸医薬、スピード承認 神経難病の治療薬 : 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ03HDX_T00C17A7000000/ (2017/12/27確認)

[2]脊髄性筋萎縮症 : 難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/135 (2017/12/27確認)

[3]核酸医薬とは : BONAC CORPORATION http://www.bonac.com/nucleic/about/ (2017/12/27確認)

[4]核酸医薬品開発の現状 : 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 井上貴雄 https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/31/1/31_10/_pdf (2017/12/27確認)

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